インタビュー
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患者さまの心の痛みがわかる医師でありたい。そのための鍛錬を生涯続けていきたいと思っています。
持病を機に、耳鼻咽喉科、頭頸部外科の診療から精神科に転向。以前の診療科で学んだ「誰が見てもわかる異常所見」を指標とした診療方法を、精神科の分野にも活かして診療しています。尊敬する父の背中を追い、生涯、治療の力を磨いてまいります。
医師をこころざしたきっかけやエピソードをお聞かせください。
父や兄弟をはじめ、親戚にも医師がたくさんいたので、環境的に、医師をこころざすのが自然な流れでした。なかでも、小児科の開業医だった父の影響が大きいです。今のような救急体制がなかったので、夜中も休日も電話が鳴りっぱなし。そんな状況でも、父は真面目な性格で、夜中の急患も断りませんでした。
父の背中を見て育ち、医師になれば人助けができるし、社会にも貢献できる、そういう思いから、医師の道へと進みました。
耳鼻咽喉科を選択されたきっかけ、精神科に転身した理由を教えてください。
まず、父が診療していた小児科を選ばなかったのは、私には兄が2人いて、長男は小児科、次男は眼科でしたので、兄弟で同じ科に行かない方がいいという考えからです。また、耳鼻咽喉科なら、診断から治療までを一つの科のなかでおこなえます。たとえば、聴力検査から聴力の再建や人工内耳の手術までおこなえるので、聴力を失った患者さまが再び聞こえるようになるまでを見届けられます。そういう点に魅力を感じました。
でも、人生は予想外のことが起きるのもので、その後、強い片頭痛発作をきっかけに、中枢性視覚障害をわずらい、手術ができなくなったため精神科に転向しました。そこには、「患者さまの痛みがわかる医者になりたい」という思いもありました。自らの病でいろいろな科をまわっても「MRIや血液検査で異常がないから気のせいでしょう」と理解してもらえないつらさを体験したため、患者さまを理解しようとする気持ちがないと成り立たない精神科に惹かれたのです。
医師としてのやりがいを感じたエピソードを教えてください。
精神科に転向して最初の3年は、やりがいどころか、何をどうしたらよいのかわかりませんでした。心の疾患は耳鼻咽喉科の疾患と違い、眼で見てわかる所見がなく、客観的に診療できるものではないと考えていたからです。でも、行動療法という考え方を知り、私は精神科に向いていると気づいたのです。
行動療法は、たとえば患者さまが何を触ったか、どのようなときにこわばったか、手を何回洗ったかなど、具体的な行動指標に基づいて治療をします。誰が見てもわかる異常所見を指標にするという点で、耳鼻咽喉科での経験と行動療法とが結びつきました。また、私自身も異常所見がなく病をわずらう気持ちを理解してもらえなかった経験を経て、より心の痛みがわかることもあり、やりがいを感じています。
日々の診療で心がけていることを教えてください。
行動療法をベースとした診療をおこなっていますので、患者さまの行動はできる限り把握する必要があります。そのため、患者さまが診察室に入ったときから私は観察しています。患者さまの様子は一回一回変化しますが、前回のデータと照らし合わせることで連続性のある治療が可能になります。
診療に際しては、何らかの痛みや苦しみを抱える患者さまに配慮し、やさしく、あたたかく受けとめる姿勢でお迎えするようにしています。初めての来院の際には、まず医師と患者さまが対等であることをお話しして、聞きたいことは何でも聞いてくださいとお伝えしています。治療は患者さまとの共同作業であることを理解いただいて、患者さまが症状をセルフコントロールできようになることを目標にしています。
患者さまにリラックスしていただくために取り組んでいることを教えてください。
カラーコーディネートの知識を持つ建築士とも話し合って、待合室のつくりにはこだわっています。精神科では一般的に、ベンチを同じ向きに並べることで、他の患者さまの視線が気にならないよう配慮するのですが、当クリニックでは、空間を広くとることで、自由に視線を外せるようなつくりにしてあります。大きな空間でゆっくり休んでいただきたいという思いからです。実際、待っている間にリラックスしてここで眠っている患者さまもいらっしゃいます。